| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-172 (Poster presentation)
本研究では、我が国の代表的な中低木街路樹5種を用いて、(1)乾燥ストレスに対する応答戦略の調査、(2)乾燥ストレスにさらされやすい都市環境に最も適している樹種の判別、(3)乾燥ストレスに対する応答戦略と木部を含む維管束組織の形態的パラメーターとの関係の解明を目的とした。ヒラドツツジ、レンギョウ、クルメツツジ、マルバシャリンバイ、カンツバキの5種を学内の温室で栽培した。潅水を停止することで植物に乾燥ストレスを与えた。乾燥前、乾燥後、回復の各段階でLi-6400を用いてA-Ciカーブを求めた。また、プレッシャーチャンバーを用いて茎と葉の水ポテンシャルを測定し、葉の通水コンダクタンスを算出した。光学顕微鏡を用いて維管束組織の構造観察を行い、木部面積などを算出した。実験の結果、光合成維持の観点で優れているのはマルバシャリンバイとレンギョウであり、水分状態維持の観点ではヒラドツツジとマルバシャリンバイが優れていることが示された。これらより、マルバシャリンバイは光合成と水分状態の維持をどちらも行っており、乾燥条件下において光合成の維持と生命の維持がどちらも求められる街路樹としては、今回用いた5種の中では最も適している樹種であると判別された。また「光合成の維持率」と「葉柄部に占める木部面積の割合」とのあいだには有意な負の相関関係がみられ、光合成の維持率が高い樹種は木部面積の割合が低いことが示された。今回用いた樹種の中でこれに該当するのはマルバシャリンバイとレンギョウで、この2樹種では乾燥後における高い通水コンダクタンスが示された。これらより、通導組織である木部の占める割合が低い樹種ほど、乾燥条件下で根から得られる水が少なくても通導組織内を水で満たすことができキャビテーションのリスクを避けることができたため、結果として通水性、光合成を維持できていたのだと考えられる。