| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-175  (Poster presentation)

クスノキ老大木の通水構造(2) 老木と成木の通水構造の比較
Height-related change in xylem structure of old Cinnamomum camphora trees (2) Comparison of old and adult trees

*野口結子, 難波結希, 原千夏, 黒田慶子, 石井弘明(神戸大学大学院)
*Yuiko Noguchi, Yuki Namba, Chinatsu Hara, Keiko Kuroda, Hiroaki Ishii(Kobe Univ.)

 樹高成長による道管内の通水抵抗の著しい増大は、葉の生理機能を低下させる。これに対する樹木の適応的な通水構造に、幹基部から樹冠にかけて通水組織の直径が小さくなり、数が増える現象(Conduit Tapering)がある(Anfodillo et al. 2005)。しかし、樹高は樹齢や直径と共に増加するため、この現象に対する樹齢の効果を独立に検証することは困難であった。
 本研究では樹齢が通水構造に与える効果を検証することを目的とし、高さと生育環境が同一のクスノキ集団において、老齢木(樹齢約100-150年、老木)と壮齢木(樹齢約50年、成木)の通水構造の個体内変異を比較した。
 兵庫県西宮神社の社叢林に生育する、樹高が20-25mに揃った老木3個体、成木3個体に登り、地上1.5mから樹高付近の枝までの木部を採取した。切片の顕微鏡画像から測定した道管形質(平均道管直径DH, μm・道管密度VD, mm-2)、および組織の通水機能(水輸送効率Kp, kg m-1 Mpa s-1)の、高さおよび直径に対する個体内変異を樹齢で比較した。
 高さに伴い、老木では成木より急激なDHの低下が起こり、樹齢の効果がみられた。基部では特に老木において直径200μm以上の大きな道管が多くみられ、この結果Kpは老木の基部において成木の2倍程度高くなった。樹高が同様でも、老木では樹冠の葉量が多いため水の要求量が増える。これに対する応答として、DHが高さに対してより急激に変化する事により,老木では高い水輸送効率が実現されると考えられる。
 一方、幹の直径の変化に対する道管形質と水輸送効率の変化率に樹齢の効果は見られなかったが、道管形質では同じ幹直径に対するDHの値は成木で大きく、VDの値は老木で高かった。これらの結果が相殺され、Kpは樹齢によらず同程度であった。
 本研究から、道管形質は高さの増大に伴い個体内で適応的に変異する一方、樹齢の増加に伴う葉量・樹冠の増大に対しても応答し、個体レベルの通水機能の恒常性維持(hydraulic homeostasis)に寄与すると考えられる。


日本生態学会