| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-179 (Poster presentation)
近年、外生菌根菌と共生するランやイチヤクソウでは、光合成能力を保持したまま、菌根菌からも有機炭素を得る「部分的菌従属栄養植物」が多く報告されている。外生菌根菌の炭素安定同位体比(δ13C)はその宿主植物よりも顕著に大きくなることから、炭素源の一部を外生菌根菌に依存する緑色植物ではδ13Cが他の植物よりも大きくなる。しかし、大多数の草本種がアーバスキュラー菌根菌(AM菌)と共生しているにも関わらず、AM菌に依存する部分的菌従属栄養植物はほとんど探索されていない。これは、AM菌とその宿主植物ではδ13Cに顕著な差が見られないため、δ13CはAM菌と共生する草本種の炭素源を必ずしも反映しないことが一因である。しかし森林では、林床から林冠に向かって13CO2が大きくなる垂直勾配が存在するため、13CO2を多く吸収する林冠木がAM菌の主な炭素源であれば、草本種の炭素源を反映する指標としてδ13Cを利用できる可能性がある。
本研究では、部分的菌従属栄養を示す可能性のある草本種を探索するため、北海道帯広市の夏緑樹林において優占する林冠木3種と草本30種、およびAM菌を対象とした安定同位体分析を行った。林床の夏緑草本には、年によって地上部をつくらない特殊な休眠様式が報告されているものがあり、地上部を出さない間も地下部の代謝活動が生じることから、AM菌からの炭素供給が疑われる。これまでの予備調査から、AM菌のδ13Cは菌根共生しない(すなわち、確実に独立栄養の)草本種よりも有意に大きく、林冠木とは差が無いことが明らかになっているが、本発表では他の植物種についても分析結果を示す予定である。植物体のδ13Cは水利用効率を反映する指標としても用いられており、AM菌に依存する部分的菌従属栄養植物が存在するか、複数の観点から検証していく予定である。