| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-182 (Poster presentation)
常緑樹カクレミノ(ウコギ科Dendropanax trifodus)は幹から伸ばした枝に互生の葉をつけてシュートを形成し、葉がシュート先端付近に輪生状に配置される。カクレミノには広卵形の葉と、先端が掌状に2 - 5裂した葉(以下、分裂葉とする)が観察される。葉にこのような形態変異が生じる要因を、シュートレベルでの光環境及びシュート内での個葉の位置から検討した。
相対光量が少ないシュートほど葉数が多く、また、分裂葉の割合が高かった。分裂数の多い葉ほど薄く、LMA及び単位面積当たり窒素量が低く、陰葉化の傾向を示した。これは、カクレミノにおける葉の分裂が、不利な光環境に適応的な形質変異であることを示唆するものである。シュート内で葉数及び上方投影面積が増加しても自己被陰率は約40%、また、葉が配置されない空きスペースは約63%に維持された。これは、分裂の多い葉ほど葉柄が長く、輪生状のシュート構造の外側に配置され、さらに葉幅を広げて面積を拡大し、空きスペースを埋めたためと考えられた。カクレミノは春先に展葉及び落葉する。個葉の寿命が1年のシュートと2年のシュートがあり、明るい位置にあるシュートほど寿命が短かった。シュート当たりの葉数及び平均分裂数、自己被陰率、空きスペースは、葉の入れ替え前後で変化しなかった。これは、シュートレベルで葉の分裂と配置が安定していることを示す。
以上から、カクレミノは、シュートレベルで光環境に応じた葉の生産数、配置、個葉の分裂を示すことが明らかになった。また、分裂数の増加による個葉面積の増加は陰葉化を伴い、分裂数の多い葉が光量の少ないシュート外側に配置されることに適応的と考えられた。これらのことから、カクレミノはシュートレベルで葉の分裂と配置を調節し、空間を有効に使って受光効率を最適化していると考えられた。