| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-189 (Poster presentation)
背景
植物が利用できる窒素(N)は限られており、Nの有効利用は植物にとって重要である。樹木では地上部の6割以上ものNが木部に存在する。木部細胞に分配されるNの多くは細胞壁に含まれる構造性N(構造蛋白質)と原形質中の水溶性N (非構造蛋白質、DNA等)である。構造性N量は細胞壁バイオマスと共に変動するため木部のN濃度(質量%)への寄与が少なく、N濃度への寄与が大きいのは水溶性N量であると考えられる。
また、木部では樹幹放射方向内側へと細胞死が進行するに伴い、水溶性Nは細胞外へ転流されるが、構造性Nは転流されず材に留まることが明らかとなっている。これは形成層と辺材に水溶性Nを局在させ、木部のN濃度を抑える効果がある。
木部へのN分配に大きく関わる水溶性Nの量は、解剖形質に依存すると考えられる。本研究では、木部中の生細胞の多くを占める柔細胞には特に多くの水溶性Nが含まれ、柔組織量は木部濃度と正の相関にあると予測した。さらに柔細胞は師部から辺材の物質輸送を担うことが知られているため、柔組織量はN転流量とも正の相関を持つと予測した。以下の手法でこれらの仮説を検証した。
手法
調査は芦生研究林(京都府)に優占する針葉樹5種、広葉樹7種の胸高直径30cm以上の個体を対象に行い、樹幹放射方向に15cmの深さまで材コアを採取した。N濃度は深さ別に定量し、辺材の最も外側の1 cmと心材のN濃度の差を転流量として算出した。放射柔組織量は辺材部の解剖切片画像から定量した。
結果
相関分析の結果、放射柔組織量は木部のN濃度と正の相関を示した。全種で放射方向でのN量の減少が見られたが、N転流量に有意な種間差はなく、放射柔組織との相関もなかった。N濃度は形成層から1cmの間で大幅に下がり、放射組織を通じた辺材中の転流は少なかった。このことから、N転流は形成層から分裂した直後の細胞死の際に活発におこり、その転流量は放射組織量に依らないと言える。