| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-198  (Poster presentation)

交尾器形態の形質置換と交雑コスト回避の検証
Character displacement in genital morphology and avoidance of hybridization cost

*西村太良(神戸大学), 夏天(神戸大学), 長太伸章(科博), 曽田貞滋(京都大学), 高見泰興(神戸大学)
*Taira NISHIMURA(Kobe University), Tian Xia(Kobe University), Nobuaki Nagata(Natl. Mus. Nat. Sci), Teiji Sota(Kyoto University), Yasuoki Takami(Kobe University)

 生殖隔離の進化は種分化の重要な過程であり,種間の交尾器形態の不一致による機械的隔離は重要な役割を果たす.祖先種が異所的に分化した後,二次的接触による分集団間の交雑が生じた時,不適応な雑種形成に対する自然淘汰が生殖隔離を強化する可能性がある.その結果,交雑コストを避けるような形質の分化(生殖的形質置換)が生じると予測される.これまで,共存する近縁種間で交尾器形態の生殖的形質置換を検出した例はあるが,そのような交尾器が交雑コスト回避に寄与することを実証した研究はない.
 オオオサムシ亜属は種特異的で多様な雌雄交尾器を持ち,種間の交尾器形態の不一致が生殖的隔離機構として働いている.交尾器形態が分化した姉妹種のマヤサンオサムシとイワワキオサムシは側所的に分布し,接触域の集団間では交尾器形態の生殖的形質置換を示す.そこで本研究は,交雑コストを避けるような交尾器形態の分化を検証するため,配偶者選択実験,集団遺伝解析,および種間交雑コストの推定と交尾器形態との関連の解析を行った.
 接触集団の雄は別種の雌を区別せず,また種間の遺伝子浸透が確認されたため,接触域では種間交雑が生じうることが明らかになった.交雑コストを集団ごとに比較すると,予測とは逆に,より分化した交尾器を持つ接触集団は,単独集団よりも種間交尾の際に大きなコストを被っていた.しかし,個体レベルの交雑コストと交尾器形態の関連は,雄交尾器が長いほど交雑コストが低減されることを示していた.よって,接触域の集団では,より分化した雄交尾器が交雑コスト回避の点で有利になるような自然淘汰が働きうることが明らかになった.これらの結果は,マヤサンオサムシとイワワキオサムシは,種間交雑による種間差の減少と自然淘汰による分化の促進が拮抗しつつ種分化が進む「強化」の過程にあり,交尾器形態に見られる生殖的形質置換はその一側面であることを示唆する.


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