| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-200 (Poster presentation)
免疫に関わる遺伝子Major Histocompatibility Complex(MHC)をもとにつがい相手を選ぶことで、選ぶ側は遺伝的な利益(間接利益)を得ると考えられている。なぜなら、特定のアリルを持つ相手や、自身の遺伝子型と適切な組み合わせの遺伝子型を持つ相手とつがうことで、生まれる子の免疫機能が強化され、子の適応度向上が期待されるからである。これまでの研究で個体のMHCの遺伝子型とその個体自身の適応度成分との関連は見出されてきた。しかし、MHCによる配偶者選択の間接利益を直接的に示すには、配偶者選択の判断基準において好ましい配偶者(例えば、免疫遺伝子の違いが大きい個体など)を選んだ親の子の適応度向上が期待されることを示さなければならない。本研究は、この実証に成功した。研究対象は、17年にわたり個体の繁殖履歴が追跡されている沖縄県南大東島のリュウキュウコノハズク個体群である。2016年に繁殖した37つがいのMHC classII exon2の塩基配列を次世代シーケンサーIonPGMで決定した。個体がもつMHCアリルのアミノ酸置換数から個体間のMHCの類似度を求め、実際のつがいと、ランダムに作出した仮想つがいの類似度を比較した。さらに、これらのつがいの子79羽の生存履歴を2018年まで記録し、標識再捕獲モデルで生存率に対する親のMHC類似度の影響を評価した。加えて2002年から2018年までの調査で生涯繁殖成功を記録できた22個体のデータから、生涯繁殖成功と寿命の相関関係の有無を検討した。これらの解析の結果、1) MHCの異なる個体を配偶者として選択する、2) MHCの異なる親の子の生存率は高い、3) 長生きする個体は多くの子供を残す、という3つの傾向が示された。この結果から、南大東島のリュウキュウコノハズクは「MHCによる配偶者選択を行うことで適応度の高い子を残すことが期待される」という推論が可能になる。本研究は野外鳥類でMHCによる配偶者選択の間接利益の確証を次世代データから得た世界で初めての研究事例である。