| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-202 (Poster presentation)
植物における生殖隔離機構としては様々な要素が知られているが、一般に多くの隔離機構が複合的にはたらくため、各要素が遺伝的分化にどの程度寄与しているかを明らかにすることが重要である。ウマノスズクサ科カンアオイ属ヒメカンアオイ群には、形態上は区別できないが、秋咲き(9~11月に開花)、冬咲き(1~2月に開花)、春咲き(4月に開花)の3つの開花期をもつ集団が異所的、側所的に分布している。また秋咲き集団は3地域に隔離分布していることが知られている。そこで本研究では、ヒメカンアオイ群内における多様な開花期をもつ集団がどのように形成されたか、また開花期の違いや地理的な隔離が集団間の分化に影響しているかを明らかにするために、EST-SSRマーカー12座を用いた遺伝構造解析と共通圃場における開花期の測定を行った。その結果開花期と遺伝構造は完全には一致せず、郡内で開花期の進化が複数回起こっていることが明らかになった。更に側所的に開花期が異なる集団が分布している地域では、開花期が異なる集団間で遺伝的な分化が検出された。また集団間の遺伝的分化には地理的距離と開花期の違いの両方が寄与していることが明らかになった。ヒメカンアオイ群内の多様な開花期をもつ集団はまず地理的な隔離によってグループ間の分化が起こり、そのグループ内において開花期の進化が複数回起こったことで形成されたと考えられる。また一部地域では開花期の違いが集団間の交流に対する障壁となっている可能性がある。したがってヒメカンアオイ群では地理的な隔離と開花期の違いの両方が集団の隔離機構としてはたらいていると考えられる。