| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-205  (Poster presentation)

化学合成生態系における共生者閉じ込めと放出の進化
Evolution of symbiont enclosing and release strategy on the chemosynthetic ecosystem

*佐藤正都, 佐々木顕(総合研究大学院大学)
*Masato SATO, Akira Sasaki(SOKENDAI)

相利共生系の中でも、毎世代新たに共生者を獲得する必要がある水平伝播型の相利共生系では、共生者を再び環境中へと放出する機構が共生系を維持する上で必要不可欠である。しかし、深海に生息するハオリムシでは共生者(硫黄固定細菌)を放出する機構が無く、取り込まれた共生者が再び環境中に戻ることができるのはホスト死亡時のみである。更に、ハオリムシの中には200年以上生きるものもいるため、共生者の放出というイベントが稀にしか起こらない。故に、「ホストが死ぬまで共生者は放出されない」という戦略は共生者がホスト体内に留まるにせよホストが生存中の放出を抑制するにせよ、共生系維持を難しくする非適応的な戦略に見える。
本研究では共生者の環境中への十分な供給が必須な水平伝播系でなぜ共生者はホストが死ぬまで放出されないというような戦略が進化し得たのかを理論的に解明するために数理モデルを構築した。生存しているホストからの共生者の放出率は、放出率を上げようとする共生者の形質と放出率を下げようとするホストの形質の両方によって決まると考えた。ホストによる放出抑制にはコストがかかり、放出抑制を強めるほど自身の死亡率が増加すると仮定した。また、共生者の放出はホストにとって害になると考え放出率が高いほどホストの死亡率は増加すると仮定した。これらの仮定のもと、共生者はホスト生存中とホスト死亡時の共生者放出量の和を最大化、ホストは生涯の繁殖成功を最大化する方向に進化する。
この進化動態により、ホスト体内の共生者の環境収容力が高く、かつホストによる放出抑制のコストが大きい場合、共生者は脱出を一切行わないように進化し、ホスト体内の共生者の環境収容力が低い場合には共生者が体内から脱出し、ホストは閉じ込めを放棄するという進化が起こった。また、初期の形質に依存して共生者の脱出とホストによる閉じ込めが無際限に増加することがあった。


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