| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-206 (Poster presentation)
多様な色彩をもつトンボ目昆虫では、多くの種において体色に性的二型が現れる。一方、一部の種では同種の雄に体色の似るオス型の雌が出現することで雌に色彩多型のある状態が成立している。アオモンイトトンボ属では、アオモンイトトンボが雌に体色の2型(オス型とメス型)が出現し、マンシュウイトトンボではそれらの中間的な体色の個体(中間型)が加わることで雌が3型となる。アオモンイトトンボにおいて遺伝子発現解析を行なったところ、表現型間で発現量の異なる遺伝子としてdoublesex遺伝子(dsx)が検出されるとともに、雄がdsxの短い転写産物を発現し、メス型の雌では長い転写産物を発現する一方、オス型の雌では両方の転写産物が発現していることが確認された。本研究では、アオモンイトトンボにおけるdsxの機能と、近縁種のマンシュウイトトンボにおけるdsxの発現パターンを明らかにすることを目的とした。アオモンイトトンボにおけるdsxの機能解析では、siRNAとして長い転写産物特異的な領域と両転写産物共通の領域のものを設計し、それらを雄とオス型、メス型の終齢幼虫の胸部に導入して羽化成虫の表現型を観察した。長い転写産物をノックダウンしても表現型に影響がなかったが、両転写産物をノックダウンした雄とオス型では、胸部においてメス型の体色がみられた。雄では長い転写産物の発現量が低いことから、短い転写産物の発現が本種の雄のような体色を促進することが示唆された。マンシュウイトトンボの3つの型の成熟雌に関してdsxの発現解析を行なったところ、アオモンイトトンボでは発現していない新たなスプライスバリアントが見つかった。したがって、マンシュウイトトンボに特異的なスプライスバリアントの発現が雌の3型の成立に貢献している可能性がある。これらのことから、アオモンイトトンボ属の雌特異的な色彩多型はdsxの発現パターンが変化することで成り立っていると考えられる。