| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-212 (Poster presentation)
翼手類は空への進出を果たした唯一の哺乳類である. 翼手類では飛行に用いられる前肢の指骨が著しく伸長しており,他哺乳類の四肢形態から逸脱しているため, その形態形成プロセスも一般的なパターンから逸脱していることが予想される. しかし翼手類の四肢形態形成過程において,どの点が特異的であり,どの点が保存されているのかについてほとんど明らかとなっていない.そこで本研究では,コウモリ類11種, 四肢動物71種における119の形質の形成過程を詳細に記載し, 全形質における四肢関連形質の形成タイミングを算出した.各種の四肢形成における相対形成タイミングを比較することにより,翼手類の四肢形態形成における変異を他哺乳類種に対する変異および翼手類種間における変異の2つの視点から検討した.
他哺乳類種に対する発生比較では, 四肢形成開始タイミングの早期化, 前肢・後肢の形成順序の逆転が検出され, 後肢は前肢以上に早期化していた.翼手類の新生子は出生直後に後肢で母体へしがみつきを行うため,後肢における著しい早期化は他哺乳類に対する後肢の機能的要請と関連していることが示唆される.
翼手類種間における発生比較では, 生態学的要素を用いた一般化線形モデルにより,翼手類内における四肢形成開始タイミングの変異が, 繁殖場所および1腹産子数と関連していることが示された.結果として,洞穴性で1産子性の種では四肢形成の開始タイミングが早期的である一方で,家屋性で2産子性の種では晩期的であることが判明した.一般に,洞穴性の新生子は出生直後に母体へのしがみつきを行うが,家屋性の新生子は家屋内で待機するため,四肢形成開始タイミングの種間変異は,出生直後の四肢利用の機能的要請の違いと関連していることが示唆される.