| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-214 (Poster presentation)
温度環境への適応進化に伴う遺伝的変異の解明は、生物の分布や生理・生態の進化の過程と要因を理解する上で重要であるだけでなく、地球温暖化などの環境破壊に対する生物の進化的応答を考えるためにも重要である。これまで、気温や季節に応答する遺伝子や温度感知に関わるアミノ酸変異などの特定が進められ、温度環境への適応に重要な遺伝子が明らかになってきている。しかし、転移因子の活動や重複遺伝子、遺伝子の位置関係の進化など、進化可能性に関わるようなゲノムの各特徴が、温度環境への適応進化とどのように関係するのかということについてはほとんどわかっていない。本研究は、西インド諸島において生息環境や形態が爆発的に多様化した適応放散進化のモデル生物であるアノールトカゲのうち、生息温度環境が異なるキューバの近縁2種Anolis allogusとAnolis sagreiのゲノムを、ショートリードのシーケンスデータから擬似的にロングリードを合成することができるChromiumシステムを用いて新規に決定し、転移因子の推定や遺伝子予測を行い、ゲノムの特徴の比較解析を行うことを目的とする。両種は共に、木の幹と地面を主な生息場所として利用し、形態もよく似ているが、A. allogusは森林内の日陰の比較的涼しい森林低温環境に生息するのに対し、A. sagreiは森林外の開放部で、日差しが強くて暑い開放高温環境に生息している。また、系統解析から、最節約的に考えると、森林低温環境が祖先的な生息環境であり、開放高温環境への進出がA. sagreiのクレードの方で起きたことが最節約的に推定されている。本発表では、2種のゲノムの特徴を報告し、開放高温環境への進出とゲノム進化との関係を議論したい。