| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-222 (Poster presentation)
分散能力に乏しい動物について、高山帯を含む山岳域における遺伝的多様性を評価することは、高山帯の隔離集団における種分化プロセスの理解や、環境変化が著しい高山環境における将来的な種の絶滅予測、保全に不可欠である。そこで本研究では、本州以南に広く、かつ低地から高山帯までの様々な標高帯に分布し、分散能力が乏しいことが知られているヤマナメクジMeghimatium fruhstorferiついて、標高変化に伴う遺伝的動態や高山帯における固有性に関する知見を集積し、遺伝的多様性を明らかにするとともに、その形成機構について検討することを目的とした。北アルプス立山および近隣地域において、標高40m~2800mの範囲で個体を採集し、ミトコンドリアDNAのチトクロムcオキシダーゼサブユニットI(COI)部分領域の塩基配列決定と次世代シーケンスによる網羅的ゲノム解析をおこなった。始めに、解析によって得たCOI領域496bpとゲノム配列306410bpを用いて最尤系統樹をそれぞれ探索した。共通の結果として、2つのクレードに分岐し、片方に立山低地集団(標高1500m以下)が、もう一方に亜高山帯集団(標高1900m~2200m)および高山帯集団(標高2300m以上)が含まれた。次に、ゲノム配列についてそれらの3集団間で遺伝的距離を比較したところ、各集団間で有意な遺伝的分化が検出された。COI領域を用いた系統解析において、低地集団と100km以上地理的に離れた地域の集団とが同一クレードに含まれたことから、低地、亜高山帯、高山帯集団間で生じている遺伝的分化が、距離による隔離に起因している可能性は低いと考えられる。一方で、亜高山植生から高山植生などの主要植生帯の変化と遺伝的変異が一致していたことから、立山における標高ごとの遺伝的多様性の形成は環境との相互作用に強く影響を受けている可能性がある。