| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-224  (Poster presentation)

河川における非対称な遺伝子流動と局所適応の失敗
Failure in local adaptation caused by asymmetric gene flow in a river system

*吉田琴音(千葉大・院・融合), 高橋佑磨(千葉大・院・理)
*Yoshida Kotone(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Yuma Takahashi(Grad. Sci., Chiba Univ.)

生物は分布域の辺縁部の集団が新規環境への適応を繰り返すことによって分布域を際限なく拡大できる可能性がある。しかし、現実には各生物種の分布は限定的である。このことは、分布の辺縁部において新規環境への適応進化を制限する何らかの機構が存在することを示唆している。理論的には、個体数の多い分布中心部から個体数の少ない分布辺縁部への一方的な遺伝子流動が、辺縁部の集団で非適応的な形質をもつ個体の割合を高めることで形質の最適化や新規環境への適応を妨げると考えられている。河川では、上流から下流へ受動的な個体の移動が恒常的に起きるため、移動能力の低い生物では正味の遺伝子流動が一方向的になると期待される。そのため、勾配の異なる河川での遺伝子流動や局所適応の程度を比較することで遺伝子流動による適応の阻害の過程が検証できる可能性がある。本研究では、河川の淡水域から汽水域に幅広く分布する巻貝のチリメンカワニナを用いて、河床の勾配の緩やかな木曽川と勾配の急な川内川において遺伝子流動のパターンと適応の阻害の関係を検証した。まず、集団遺伝学的な解析を行なうために、両河川の複数地点で本種の成貝のサンプリングを行なった。RAD-seqによって得られた多型座位から非中立の座位を除いたのち、集団の遺伝構造や集団間の遺伝子流動、分化の程度を推定した。アサイメントテストを行なったところ、両河川とも河川内での明確な遺伝構造は見られなかった。遺伝子流動は、木曽川では方向性が見られなかったが、川内川では上流から下流へと一方向的になっていた。また、距離あたりの集団間の分化の程度は緩やかな木曽川で大きかった。先行研究では、勾配の緩やかな木曽川でのみ下流側の分布限界において汽水適応が成立し、汽水環境へ進出したことが報告されている。これらを踏まえると、一方向的な遺伝子流動が下流側の分布辺縁での局所適応や分布拡大を妨げていることが示唆される。


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