| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-229 (Poster presentation)
社会性膜翅目昆虫のメスは、羽化後の限られた時期にしか交尾をしないため、その時に死亡するまでの期間に使用できるほど十分な量の精子を受精嚢に保存する。社会性が発達している種ほどメスは長寿であり、貯蔵精子数が多い傾向がみられるため、精子貯蔵能力の進化は社会性の発達に欠かせない要素であったと考えられる。そのため、単独性膜翅目昆虫を含めた膜翅目全体の種の精子貯蔵機能の進化を明らかにすることは、社会性発達の道筋に迫ることに繋がる。そこで、本研究では膜翅目昆虫の精子貯蔵機能の進化を探るため、受精嚢の形態と機能を調べた。
膜翅目昆虫の受精嚢は、リザーバー、受精嚢管、sperm pump、受精嚢腺で構成されている。本研究では、受精嚢の形態(外形、細胞構造)と機能(貯蔵されている精子の運動)に着目した。15科44種を調べたところ、リザーバーは涙型、球型、ソラマメ型に、受精嚢腺はこん棒型、糸型、板型に分けられた。リザーバーの上皮は、円柱状細胞で構成されている種と、立方状細胞で構成されている種がみられた。さらに、貯蔵されている精子の運動は物理的な損傷と活性酸素の発生をともなうと考えられるため、長期間精子を保存する種では、リザーバー内の精子を不動化させる機能があるのではないかと仮説を立てた。精子貯蔵期間数ヶ月のドロバチ類やツチバチ類では、リザーバー内の精子は運動していた。クマバチ属ではリザーバー内で不動化した精子と運動している精子が共存していた。一方、精子貯蔵期間約一年のセグロアシナガバチでは精子の運動が著しく低下していた。これまでに、精子貯蔵期間が十年以上のアリ科女王のリザーバー内精子が不動化していることが知られており、これらのことから精子貯蔵期間が一年以上の種では受精嚢内で精子を不動化させていると考えられる。