| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-231 (Poster presentation)
増水は河川性魚類にとって影響の大きな攪乱である。増水は生息環境を改変する以外にも魚類を本来の生息場所から流下させる原因となり、とくに遊泳力の低い幼魚の流下率が高いと考えられている。また、堰堤の上流域に生息する個体が増水時に流下してしまうと、堰堤の下流側に流下した個体は堰堤上流に復帰できない。この結果として、堰堤上流の個体群では、遊泳力の低い幼魚期の形態形質に、増水時の流下を防ぐ適応進化がおこっているという仮説が立てられる。
本研究は、和歌山県南部の古座川水系に生息するアマゴの幼魚を用いて、上記の仮説を検証する。古座川水系は日本有数の多雨地域である。まず、解放支流、滝上流、堰堤上流に生息する各個体群を対象に、野外の幼魚の形態比較をおこない、簡易的な共通環境実験によって、これらの形態が遺伝的か否かを調べた。さらに、増水直前に幼魚を放流し、形態形質と堰堤上流における残存率の関係を調べる野外増水実験を行った。着目した形態は、遊泳力に関連することが報告されている体高及び尾柄高とした。
堰堤上流群の体高及び尾柄高は、滝上群・解放支流群より高かった。共通環境実験の結果でも同様の傾向が示された。さらに、野外増水実験でも、体高及び尾柄高が高い個体ほど残存率が高かった。本実験では、当初想定していなかった、増水時に低ダム(段差約1m)を遡上する個体も観察された。そこで遡上に着目した解析を行った結果、体高及び尾柄高が高い個体ほど遡上する傾向が認められた。残存および遡上に関して重要な形態部位を見出すために、各形質を組み込んだ統計モデル間でモデル選択を行った結果、脂ビレ後端における尾柄高及び側線上部の体高のモデルが選択された。
これらは上記仮説を支持する結果であり、アマゴの堰堤上流個体群が、増水時の流下を防ぐ幼魚期の適応として、より高い体高を進化させていることを示唆する。