| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-232 (Poster presentation)
生物個体間の協力行動の進化と維持のメカニズムについては、現在まで様々な理論的研究がなされてきたが、その多くは、協力行動が行為者自身の適応度を下げる囚人のジレンマ(PD)ゲームの枠組みに基づいたものである。それに対し、協力行動が自身の適応度を上げる場合はSnowdrift(SD)ゲームの枠組みを用いることができる。PDゲームでは個体群の空間構造が常に協力行動の維持を促すのに対し、SDゲームでは逆に空間構造が協力行動を阻害すること場合があることが知られている。本研究では、2重格子空間上のSDゲームモデルを用いて、相利共生(異種間の協力行動)の維持に対する空間構造の影響を調べた。
重なった2枚の正方格子空間上に、異なる種の個体群がそれぞれ生息していると仮定する。各格子点は一個体によって占められるか、空き格子であるかのいずれかの状態をとり、同じ座標の格子点にいる異種個体間でのみ相互作用が起こる。どちらの種の個体にも協力者と非協力者の2つのタイプがあり、相互作用により個体が得る利得はSDゲームに従う。各個体は、空いている近傍格子にのみ繁殖可能であり、相互作用の利得が大きいほど繁殖率が大きいとする。
空間構造を考慮せず、格子空間に個体が一様に分布すると仮定した数学的解析の結果、安定平衡状態では相互作用の利得が大きいと両種で協力者のみが存続したが、利得が小さいと一方の種では非協力者のみ、他方の種では協力者のみが存続した。それに対し、空間構造を導入したコンピュータシミュレーションでは、より利得が小さい領域でも両方の種で協力者が存続した。つまり、このモデルでは空間構造は相互協力の維持を促すことがわかった。また、相互作用がない場合の繁殖率が小さいほど、協力者は存続しやすくなった。この結果は、劣悪な環境下で生物が増殖しにくいときほど、異種間の相互協力が促進されることを示唆している。