| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-242 (Poster presentation)
砂丘再活動が問題となっている北東アジア乾燥地の草原では、風食抑制と砂丘固定を促進するための植生回復技術が求められている。風食抑制の効果は一般に、植被率が大きいほど高まり、その効果は閾値的に変化するとの報告があるが、野外で植生量と風食との関係を実際に検証した例はごく限られている。また種組成や生育型等の植生構造も受食性に影響を及ぼすことが指摘されているが、これらの特性と風食抑制との詳細な関係は明らかになっていない。そこで本研究では、植生回復程度の異なる複数の砂丘地で飛砂量を同時観測することで、植生タイプの違いが風食抑制に及ぼす影響を把握することを試みた。
まず、固定化の程度の異なる砂丘地を選定し、砂丘地内で植生遷移による回復ステージや植栽処理の異なる以下の4タイプの調査区を設置した:(1)流動砂丘区、(2)一年草区、(3)イネ科多年草区、(4)灌木植栽区。各調査区で植生調査を行い、圧電飛砂計による飛砂数の測定、携帯型風向風速計による簡易気象観測を行った。調査区全域で同時に観測されたダストイベントごとの飛砂粒子数(n/s)について植生タイプ間で比較検討した。また、植生タイプごとに風速ごとの飛砂粒子数と飛砂発生頻度を求め、風速と飛砂の対応について検討した。
その結果、全体として植被率が減少すると飛砂粒子数は増加し、とくに植被率9%を下回っている調査区では飛砂の発生が顕著であった。よって植被率が生態学的閾値より低下すると、正のフィードバックにより加速的な侵食が引き起こされることが示唆された。また、ダストイベントごとの飛砂粒子数について有意差がみられたのは流動砂丘区と灌木植栽区間のみであったが、風速別の解析では飛砂発生頻度は全植生タイプで風速の増加に伴い増加し、飛砂粒子数は流動砂丘区と一年草区でのみ風速の増加に伴い大きく増加した。以上より風食抑制の効果は植生タイプによって異なることが示唆された。