| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-247 (Poster presentation)
近年、野生の訪花性昆虫群集が作物の送粉サービスの安定性に貢献していることが注目されている。これまで作物の送粉サービスに関しては、ミツバチ類とその他の野生昆虫の訪花効率の比較や、訪花昆虫の種数・個体数の景観への応答が研究されてきたが、時間的な変動についてはあまり知られていない。近年は気候変動に伴って極端気象が増加しており、作物への送粉サービスの時間変動を探ることは重要である。そこで、本研究では野生の訪花昆虫が作物にもたらす送粉サービスが、異なる時期や景観においていかに変動するか探ることを目的とした。
本研究では、長野県上伊那郡飯島町のソバ畑において袋掛けによる実験的な調査をした。ソバは異形花柱性かつ自家不和合性の作物であり、様々な昆虫による訪花が確認されている。袋掛けは粗い網を用い、小さな昆虫は通過できるようになっている。対象としたソバの花序は持ち帰って結実率を計測し、全昆虫、小型昆虫、大型昆虫による貢献をそれぞれ評価した。この調査は、夏期と秋期の2時期を2年間の計4回実施した。データは主に階層線形モデルによって解析し、結実率の年・季節変動とその交互作用に加え、場所ごとのランダム効果を景観によって説明する形とした。
その結果、小型昆虫には送粉サービス全体への安定の効果、大型昆虫には時期による変動の効果がみられた。ここで、小型昆虫は森林、大型昆虫は開放地(草地や空き地等)の景観にそれぞれ応答しており、さらに小型昆虫と大型昆虫には時空間的な相補性がみられた。小型昆虫は2年間安定した結実貢献をしていたが、大型昆虫は大きく変動していた。大型昆虫の変動は天候による影響が考えられたが、その変動は開放地が十分にあることで緩和されていた。これらのことから、極端気象が増える中で作物の送粉サービスを安定・向上させるには、単一の自然景観ではなく異質性の高い景観が重要であることが明らかになった。