| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-252 (Poster presentation)
ダム建設は人間による最大の生態系改変の一つであり、建設によって引き起こされる陸地の消失やダム湖形成に伴う水位変動帯の出現は、水生生物のみならず、周辺の陸生生物の活動にも様々な影響を及ぼすと考えられる。本州から九州にかけて生息する雑食性のテンMartes Melampus(食肉目イタチ科)は、道路沿いなどの目立つ場所に糞をするため、糞の確認位置から活動域を推定可能である。佐賀市の嘉瀬川ダム周辺における先行研究により、ダム建設前後で、テンの糞が多く確認される地域が工事の直接的な影響を受けてない道路沿い(以下、旧道沿い)からダム建設に伴って新しく設置された付替道路沿いに変化したことなどが明らかになっている。しかし、活動域が変化した要因や、テンによるダム湖の水位変動帯の利用状況に関しては未解明な点が多い。
本研究では、定期調査により嘉瀬川ダム周辺における現在のテンの活動域について調査した。また、テンの主要な餌資源である果実の分布状況を記録し、テンの活動域との関係を調査した。さらに、自動撮影カメラによりテンの水位変動帯の利用状況を調査した。
その結果、テンの糞は現在も付替道路沿いで多くの確認されたのに加え、ダム建設に伴って改装された道路沿いで新たに増加していることが判明した。テンが利用可能な果実の分布は、旧道沿いがもっとも豊富で、付替道路沿いで少なかった。したがって、テンの付替道路や改装道路の頻繁な利用は、主要な果実の分布以外の環境要因が関連している可能性が高いと考えられた。また、改装道路では、並行して流れる河川側の端で有意に多くの糞が確認されたことから、河川の利用が強く影響していると考えられた。水位変動帯においてはテン以外の哺乳類が頻繁に確認されたのに対し、テンはほとんど確認されなかった。このことから、テンは一度水没した区域を現在もほとんど利用していないと考えられた。