| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-257 (Poster presentation)
現在、世界規模で急増する耕作放棄地は、食の安全保障を脅かしている。一度放棄された農地を再整備するコストは膨大となることから、こうした耕作放棄地は利用されないまま今後も放棄され続けると予測されている。このため、耕作放棄地の管理は、資源を効率的に利用する上で欠かせない課題である。したがって、耕作放棄地が与える農地環境への影響を明らかにし、耕作放棄地そのものの多面的機能について模索することが求められる。
近年、耕作放棄地は、草地性鳥類にとって有効な生息地となることが示されている。また、鳥類による害虫抑制サービスが、作物生産量の増加に寄与することも明らかになっている。つまり、耕作放棄地の存在は鳥類の保全とともに、周囲の農業活動に貢献する可能性が考えられる。しかし、耕作放棄地自体が鳥類の多様性保全に与える影響に着目した研究は限られており、害虫抑制サービス量との関係は明らかになっていない。そこで本研究は、耕作放棄地の有用性を見出すことを目的に、耕作放棄地の存在および質の違いが、農地景観内における鳥類の種多様性および耕作放棄地の周辺農地への害虫抑制効果に与える影響を明らかにした。2017年5‐8月、北海道十勝平野の耕作放棄地に隣接する農地(14か所)と隣接しない農地(9か所)を対象に、鳥類相を把握した。また、疑似餌を用い、鳥類による害虫捕食率を求めた。
結果、鳥類の多様性と害虫捕食率のどちらもが、耕作放棄地に隣接する農地において、存在しない農地より著しく高くなった。また、耕作放棄地の面積および放棄地内における植生の複雑さに応じて変化した。本研究は、耕作放棄地自体に価値を見出し、鳥類と農業にWin-Winな戦略として耕作放棄地の管理を含めた新たな土地管理計画の知見を提供する。さらにその価値は、耕作放棄地内における植生の立体構造を複雑化させることで高まるだろう。