| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-258  (Poster presentation)

耕作放棄はなぜ進むのか?能登半島での農業従事者の作業記録から見た放棄リスクの推定
Why do abandoning cultivation proceed? Estimation of abandonment risk from the work record of agricultural workers at Noto Peninsula

*原優太, 上野裕介(石川県立大学)
*Yuta HARA, Yusuke UENO(Ishikawa Prefectual Univ.)

我が国では、少子高齢化に伴う急速な農業就業人口の減少により、各地で耕作放棄地が増えている。耕作放棄地の多くは中山間地に存在し、絶滅が危惧される希少な動植物の生息場所となっている。このため耕作放棄の発生を減らし、中山間地の農業を保全することは、農業と生物多様性保全の双方にとって喫緊の課題である。
農林水産省は、スマート農業や農地の集約・大規模化などの取組みを推進することで、農作業にかかる人手やコストの削減を目指している。一方で各農家は、集落内の共同水路や農道の管理、草刈りなどの集団作業にも従事しており、農業就業人口の減少は、残された各農家の作業負担を飛躍的に増加させ、耕作放棄の主要因の一つになる可能性がある。
そこで本研究は、過疎化が進む能登半島において将来の耕作放棄リスクを把握することを目的に、集落での聞き取り調査と国の統計情報を基に中山間地における集団作業の実態を把握し、将来の農業人口の減少に伴う集団作業負担の増大の程度を試算した。あわせてGISを用いた地図化を行い、能登半島内で特に耕作放棄リスクの高い集落を示した。
これらの結果、水稲栽培に必要な全生産コストに占める集団作業の割合は、農家の営農規模(大規模化の程度)によって異なるものの、概ね7.6~16.3%であった。また20年後の農業就業人口は、能登半島にあるほとんど集落で現在の2割以下に急減し、その多くが1人未満の集落になると予測された。一方で、今後20年間の農業就業人口の減少率(集団作業に参加する農家数の減少数)と中山間地域の水田面積の関係から、集団作業に必要な各農家のコスト負担の程度を試算した結果、1農家あたり毎年数百万円から数千万円分の労働もしくは費用負担が必要になる恐れがあることがわかった。これらの結果は、中山間地では農地の生産性向上策だけでなく、集団作業負担を減らすための抜本的な対策が必要であることを示している。


日本生態学会