| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-308  (Poster presentation)

主要送粉者相の違いが引き起こすアカツメクサとシロツメクサの分布上限決定要因の違い
Difference of limited factor in high-elevation limit of red and white clover caused by the difference in main pollinator

*加藤禎基, 中瀬悠太, 江川信, 市野隆雄(信大・理・生物)
*Tomoki KATO, Yuta Nakase, Shin Egawa, Takao Itino(Shinshu University)

標高傾度上での植物の分布上限については、気温や積雪などの非生物的要因によって説明されることが多いが、生物間相互作用も分布範囲を制限する要因となりうる。
本研究では自家不和合の多年生草本植物であるアカツメクサとシロツメクサを用い、主要送粉者の違いが分布上限を決める要因となるかを検討した。アカツメクサの花筒はシロツメクサに比べて細長く、長い口吻を持つ送粉者しか利用できない。また、本研究の調査地である長野県の乗鞍岳においては、10mm以上の長い口吻を持つ送粉者が山地帯(700~1700m)から亜高山帯(1700~2500m)にかけて減少することから、アカツメクサでは送粉者制限によって分布上限が決まっていることが予測された。そこで両植物種について標高分布、および標高ごとの送粉者と結実率を調べた。その結果、アカツメクサの分布標高は700m~2380mであり、シロツメクサの分布標高は700m~2700mであった。また、アカツメクサの主要送粉者は10mm以上の長い口吻を持つミヤママルハナバチであり、シロツメクサの主要送粉者は10mm以下の短い口吻を持つヒメマルハナバチであった。結実率は両種ともに標高が上がるにつれて低下した。しかし、シロツメクサの結実率低下が緩やかであったのに対し、アカツメクサでは標高2300mから急激に結実率が低下していた。また、シロツメクサの主要送粉者であるヒメマルハナバチは標高2700m以上でも多く観察されたのに対し、アカツメクサの(標高1500m以上における)主要送粉者であるミヤママルハナバチの個体数は標高1800mから減少し、2350m以上では1個体も見られず、アカツメクサの分布上限とミヤママルハナバチの分布上限は一致した。以上の結果は「アカツメクサの分布上限は標高の上昇に伴って長い口吻を持つ送粉者が減少することによって制限される」という仮説を支持する。


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