| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-316 (Poster presentation)
多くの被子植物の花粉媒介は、動物、特に昆虫に頼って行われている。被子植物は非常に多様化した花を有し、送粉者にとって魅力的な形質を進化させてきた。一方、動物側には、花を資源として活用するため、形態や感覚機能などの適応や特殊化が起こった。こうした花をめぐる植物と動物の共進化は、両者において種の多様化を引き起こした一要因だと考えられている。
この相互関係において、植物が放出する花香は特定の送粉者を誘引するシグナルの一つとして知られている。花の匂いにより媒介される植物と送粉者の関係については、植物が特徴的な匂いで送粉者を誘引し、送粉に貢献してもらう一方、蜜や花粉などを提供する見返りのある関係や、送粉者の食べ物や産卵場所の匂いに擬態し、送粉者を騙すような見返りのない関係がしばしば報告されてきた。
演者らは、高山植物として知られているクロユリ(ユリ科)の花から、特徴的な匂いをもつ浸出液が分泌されることを観察し、ハエ類がその液体をなめるような行動を確認した。花の出す匂い物質としては、テルペン類などの揮発性の高い化合物がよく知られているが、特徴的な匂いをもつ浸出液を多量に分泌する花については報告例が少なく、その浸出液が植物と昆虫の相互関係においてどのような役割を果たしているのかは興味深い。そこで本研究では、クロユリの浸出液の役割を明らかにするために、化学分析および行動実験を行った。
GC-MSによる化学分析の結果で分析した結果、浸出液の匂いの主成分は酪酸、プロピオン酸、酢酸であることが明らかになった。またHPLCによる分析では、採取した浸出液に糖が含まれていることが示された。本発表では、化学分析と行動実験の詳細について報告する。
匂いをもつ浸出液を花が多量に出す現象は報告例が少なく、花側による送粉者を誘引する戦略としてこれまで見落とされてきたかもしれない。