| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-320 (Poster presentation)
虫媒花植物は、送粉者による花粉の移動を介して、他個体の種子の花粉親になる。繁殖成功を最大化するために、どれだけの他個体と交配すべきだろうか。多数の他個体に少しずつ花粉を届けるのと、少数の他個体それぞれに多量に届けるのとでは花粉親になる種子数が異なるだろう。本研究では、交配相手数を操作する戦略として、花粉の粘着性と数に着目した。そして、送粉者数と採餌飛行あたり訪花数が異なる送粉環境において、進化的に安定な花粉の粘着性と性配分をシミュレーションにより求めた。
無数の交配グループを内包する植物集団を考える。大多数の交配グループは野生型のみから成るが、ごく一部のグループには、花粉の粘着性と性配分の異なる突然変異型が1個体存在する。各送粉者は、一つの交配グループ中をランダムに訪花する。送粉者の訪花時に、粘着性に依存した割合で花粉の持ち去りと受粉が起こり、花間の移動時に花粉の落下が起こる。全訪花終了後、柱頭上の花粉占有率に応じて種子の花粉親を決定した。野生型と突然変異型の適応度を比べESSを求めた。交配相手数の指標には、Simpsonの多様度指数を用いた。
送粉者数や採餌飛行あたり訪花数が多い環境ほど、より粘着性の低い花粉が進化した。しかし進化的に安定な粘着性は、他個体への送粉量を最大にするものではなかった。むしろ、送粉量が最大となる粘着性よりも低い粘着性がESSとなった。これは、粘着性が低いほど多数の交配相手を獲得するためであった。このことは、花粉親種子数の増加には、送粉量だけでなく交配相手数も重要であることを示している。雄投資比はどの環境でも比較的高かったが、送粉者数が多く、採餌飛行あたり訪花数が中程度の環境で特に高かった。多数の花粉を生産する個体ほど交配相手が多かったので、性配分は、交配相手数を増やすためにも進化しうるのであろう。
交配戦略は、単純に送粉量を最大にするものではなく、交配相手数を増やす方向へと進化した。