| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-324 (Poster presentation)
ニホンジカ(以下,「シカ」)の食害に関する研究は防鹿柵内外の植生調査のみによるものが多く,特定の植生下でシカがどのような採食行動をするかを行動観察によって明らかにした研究は少ない。そこで,本研究ではナラ枯れ被害林分におけるシカの採食行動と,その林分の植生の変化を関連させ,さらに今後のシカによる植生への被害を予想することで,シカによる森林衰退のメカニズムを明らかにすることを目的とした。
調査地は京都市左京区,宝ヶ池公園桜の森の西向き斜面である。2015年11月に防鹿柵が設置され,10m×30mの柵有区と柵無区が設けられていた。シカの採食行動を把握するため,柵無区に5台の自動撮影カメラを設置し,6か月にわたる観察を行った。また,週1回プロット内に枝折りなどの大きな食痕が増えていないかを確認した。さらに,シカの食害が植生に与えた影響を把握するため,防鹿柵内外の毎木調査と防鹿柵外全木に対する食痕の有無の調査を実施した。
カメラトラップ調査の結果から,シカはナラ枯れ被害林の調査地において,春から初夏(5月,6月)にかけて新葉を採食し,エサが減少した6月と7月に枝折りを行い,7月,8月にはほとんど調査地を利用せず,秋(9月,10月)に堅果や落葉を採食していたと考えられた。また,毎木調査の結果,防鹿柵外では防鹿柵内と比べて,シカの嗜好植物が枯死,あるいは更新が阻害され,不嗜好植物のソヨゴがより多く更新していたことが明らかとなった。また,植生全体の多様性の減少は防鹿柵外でより顕著になっていた。以上により,シカはエサの量によって柔軟に行動を変化させながら、嗜好植物の枯死,更新阻害を招き,植生のさらなる多様性の低下を引き起こすと考えられた。このようなシカによる森林衰退のサイクルが進行することがないよう,シカの個体数調整や防鹿柵の設置等の対策が必要と考えられる。