| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-331 (Poster presentation)
植食性昆虫の多様性の創出・維持機構として、植物のもつ化学防御物質の多様性が注目されている。近年、分析機器の発達により化学防御物質の網羅的解析=メタボロームが可能となった。本研究ではアブラナ科草本がもつ二次代謝産物である、グルコシノレート(GLS)に注目し、種ごとに異なるGLSプロファイルが、これを利用する植食性昆虫群集に与える影響について検証する。野外調査は千葉県市原市、長野県安曇野市、福島県福島市、北海道苫小牧市、夕張市、千歳市の6地点で行い、アブラナ科草本12属19種から植食性昆虫39種、約2700個体を採集した。調査地点×各植物種3個体、計93サンプルについて、理化学研究所の「ワイドターゲットメタボローム分析支援」により23種のGLSを定量した。このデータに基づき、個々のGLS量が各植食者種の在・不在に関わるかロジスティック回帰分析で解析した結果、22種類のGLSがそれぞれ1~4種の植食性昆虫の在・不在に有意な効果をもつことが示唆された。草本種間のGLSプロファイルと、各植物種を利用する植食者群集の類似度の関係をマンテルテストで検定した結果、有意な相関を示さなかった。各草本種のGLSの多様度をShannon指数で求め、各草本種上で採集された植食性昆虫の種数との関係を一般化線形モデルで解析した結果、GLS多様度が植食性昆虫の種数に負の影響を与えることが確かめられた。このように、特定のGLSが多種の昆虫に影響を与える傾向が見られない一方で、GLSプロファイルの違いが植食性昆虫の多様性に影響する可能性が示された。コショウ属をもちいた先行研究では、化学防御物質の多様度が植食性昆虫の多様度に正の影響を与えた。今回の結果では、逆にGLS多様性は負の影響を与えた。これらの結果は、複数のGLS、あるいはその他の化合物も含めた相乗効果が見られることを示唆し、化学防御物質の多様性のもつ機能解明の重要性が示された。