| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-332 (Poster presentation)
葉食性昆虫の大発生により葉が消失すると、植物はその損失を補うために補償成長を行う。補償成長による二次展葉の出現は、植物上の節足動物群集に変化をもたらすと考えられる。このような、植食者の大発生が植物を介して節足動物に及ぼす間接的な効果は、生物間の相互作用ネットワークや群集構造の成立要因を理解する上で興味深い。2016~2018年の春に、佐賀市内の公園のカシワ上でナラハバチFagineura quercivora幼虫が大発生し、株によってはすべての葉が食害により消失した(以下、消失株)。その後、消失株では二次展葉が生じた。葉食性昆虫の大発生がカシワ上の節足動物群集に及ぼす影響とその機構を明らかにするため、消失株と葉が消失しなかった株(以下、非消失株)を対象に、2016年~2018年に(1)ハバチ幼虫の食害率、(2)葉の物理的(葉の硬さとトライコーム密度)・化学的(総フェノール量)防御形質、(3)5~10月の節足動物群集、(4)種子生産量を調査した。その結果、ハバチによる食害率と消失株の発生数は年次により異なったが、秋に採取した葉では、一次展葉と二次展葉の間で防御形質に顕著な差は見られなかった。消失株では、非消失株に比べて節足動物種数が約2倍、個体数が約20倍に増加した。特にアブラムシとアリで顕著な差があったため、二次展葉の出現がアブラムシに正の影響を与え、関連する群集が増加したと考えられた。また、非消失株は秋に結実し、種子食性のゾウムシが確認されたが、消失株では種子が生産されなかった。消失株は資源配分を種子生産から葉の補償成長へと変更し、それにより種子食性昆虫が負の影響を受けたと考えられた。以上より、葉食性昆虫の大発生は、カシワの葉上の節足動物群集を多様化させるのみならず、カシワの資源配分の変更を介して種子を利用する生物群集にも間接的に影響すると推察された。