| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-347 (Poster presentation)
群集における多数生物種の共存メカニズムは、いぜん謎の多い生態学上の基本問題である。群集生態学の古典理論では、同じニッチを持つ複数の種は共存できないとされているが、実際には利用資源や生息場所の物理的条件などのニッチが似通った生物種が共存している現象、いわゆる「プランクトンのパラドクス」が見られる。社会性昆虫のアリでも、野外で一般に生活様式の似通った多数の種が共存しているが、その生態学的メカニズムの詳細は未解明な部分が多い。
群集生態学の古典理論では、種内競争による増殖抑制効果が種間競争による増殖抑制効果より強く働く場合に、異種は共存可能であるとされている。アリは一般に同種コロニー間で激しく敵対し、ワーカーは同種の非血縁者に対し攻撃的であることが知られる。このような敵対関係は、非血縁者による種内寄生から自コロニーの資源を守るために血縁選択で進化したとTsuji(2011, 2013)は推察している。さらにTsuji(2013)は、この同種非血縁者への攻撃性(干渉的な種内競争)が、副産物としてその種の個体群密度を下げ、群集において他種との共存を促すのではないかと考えた。しかし、アリ群集における種間競争に対する種内競争の卓越は定量的な実証データが皆無である。
そこで本研究では、沖縄に生息するトゲオオハリアリを用いて、野外における種内競争と種間競争の効果の厳密な定量を試みた。本種では野外コロニーを丸ごとトラップで非侵襲的に捕獲でき、標識再捕獲も可能である。野外において同種および他種個体密度が様々な場所に標識コロニー放飼し一定期間後に再捕獲することで、期間内におけるワーカー数およびブルード量の変化を調査し、同種アリおよび他種アリの生息密度がコロニー内個体数増殖に与える抑制的効果の定量を試みた。