| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-352 (Poster presentation)
安定した水温・流量によって特徴づけられる湧水環境は、他の非湧水環境とは明瞭に異なった生息地を形成し、特異な生物相を成立させると考えられる。本研究では、北海道寿都郡黒松内町を流れる朱太川水系において湧水支川と周辺の非湧水支川を対象として、底生無脊椎動物とその生息環境を調査した。これにより、湧水支川の特異性を示すとともにそこに成立する動物群集の特徴を把握した。
2018年5月28日から6月2日にかけて朱太川水系を流れる湧水支川1支川と非湧水支川2支川で環境要因(水温、水位、水質、水深、流速、川幅、開空度、細粒土砂の被度)、餌資源(堆積デトリタス量、付着藻類の現存量)、底生脊椎動物群集の調査を行った。
その結果、湧水支川では非湧水支川に比べ底生無脊椎動物の個体数密度が極めて高く、その約88%が掘潜型・収集食者に該当するユスリカ科であった。このことは、湧水支川の安定した流況が細粒土砂やデトリタスの堆積を促し、ユスリカ科の生息地と餌資源を提供することに起因すると推察された。さらに、湧水支川ではエゾヨコエビ、イズミコエグリトビケラ属、マメシジミ科といった湧水の冷涼な水環境を選好する分類群を確認することができた。本研究が対象とした湧水支川でも、非湧水支川と比べ夏季の水温が相対的に低く、変動が非常に小さかったため、非湧水支流には見られなかったこれらの分類群が生息していたものと考えられた。
湧水支川で高密度に生息している底生無脊椎動物は魚類などの水生捕食者だけでなく、クモ類やコウモリ類などの陸生捕食者の餌資源にもなりうると予想される。今後、これらの捕食者を含む食物網において餌資源供給源としての湧水支川の機能を明らかにすることは、湧水支川の特異な生息環境と生物相が周辺環境にもたらす効果の検証につながるだろう。