| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-356 (Poster presentation)
海洋から河川への通し回遊魚の遡上は、河川やその周辺の捕食者に対して、しばしば大きな餌資源補償をもたらす。多くの通し回遊魚は種ごとに明瞭な遡上フェノロジーを有しており、個々の種がもたらす餌資源補償は短期間で収束する。しかし、多様な通し回遊魚が生息する河川生態系では、遡上フェノロジーが種間でそれぞれ異なるため、回遊魚全体が引き起こす餌資源補償は長期化されるかもしれない。低-中緯度地域の温帯河川には、多様な両側回遊魚が生息している。そこで本研究では、多様な両側回遊魚の存在が、河川下流域で餌資源補償期間の長期化をもたらすか検証することを目的とした。
2018年4-12月に2週間に1回の頻度で、和歌山県の有田川下流域(河口から約5 km)において、ハゼ科魚類を中心とした両側回遊魚の捕獲調査を実施した。その結果、採集された2科6属12種の両側回遊魚のうち、8種(アユ、スミウキゴリ、ヌマチチブ、ボウズハゼ、クロヨシノボリ、オオヨシノボリ、ルリヨシノボリ、シマヨシノボリ)で遡上時期・期間が明らかになった。これら 8種の両側回遊魚は、アユ(4-7月)とシマヨシノボリ(7-10月)を除いて、種ごとの遡上時期が約1か月程度であった一方、全種をまとめると3-10月の7か月に亘って遡上していた。すなわち、種間の時間的な相補性効果によって、両側回遊魚全体の遡上期間が長期化していることが支持された。加えて、耳石の日齢査定から、主要な両側回遊魚の孵化日を推定することで、遡上フェノロジーの多様性について至近的な要因を考察する。また、両側回遊魚の遡上個体の炭素・窒素・リン構成比の分析結果に基づいて、両側回遊魚の遡上による、温帯河川への餌資源供給の可能性について議論する。