| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-364 (Poster presentation)
寄生者の中には、生活史ステージを変えるときに、宿主の行動を操作するものがいる。行動を操作された宿主はその捕食者によって利用される場合があり、時にそれは、捕食者の個体成長や個体群密度の増加を導くなど大きなインパクトを持つ。しかし、このような寄生者から宿主の捕食者への正の間接効果は、単一の捕食者種に対する影響に着目したものばかりで、多種系での研究はほとんどない。普通、捕食者群集は競争関係にある複数の種からなる。間接効果の受け方が捕食者の種によってどのように変わるのかを調べることは、寄生者の生態学的意義を理解するうえで重要なステップである。
陸生昆虫に寄生するハリガネムシは、繁殖期になると、宿主の行動を操作して陸から川へと宿主を落とす。川に落ちた陸生昆虫は河川性魚類の餌として利用される。私たちは、複数種のサケ科魚類がすむ幌内川(北海道苫小牧市)にて、秋にハリガネムシによって川に落とされたカマドウマ(宿主)の利用が魚種によってどのように変わるのかを調べた。流程5kmにわたってサケ科魚類(サクラマス、ニジマス、アメマス)を捕獲し、体サイズを測定した後、胃内容物を調べた。その結果、カマドウマ捕食個体の割合は、サクラマスで8%、アメマスで19%、ニジマスで46%となっており、ニジマスがカマドウマをよく食べることがわかった。体サイズに注目した分析の結果、サクラマスやアメマスに比べ、ニジマスは大きくなる個体が多いため、カマドウマの捕食率が高いことが示された。また、同じ尾叉長でも他種に比べてニジマスはカマドウマを食べる確率が高かったことから、ニジマスが流下物食者として優れた特性を保持することで、カマドウマを多く利用している可能性も示された。以上の結果から、寄生者によって行動操作された宿主の利用は、捕食者の種によって異なっており、体サイズと摂餌生態の違いがその種間差を生む要因になっていることが示唆された。