| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-365 (Poster presentation)
高次栄養段階の捕食者が食物連鎖を介して低次栄養段階の生物に与える影響(トップダウン効果)は、水域・陸域どちらの生態系においても重要な役割を果たしている。しかし、淡水域のベントス群集においては、トップダウン効果による群集構造の変化が、窒素やリンといった物質循環や水質に及ぼす影響についてはほとんど知られていない。一方で、スクミリンゴガイPomacea canaliculataのような外来性植食者の侵入は、水生植物の現存量を減少させ、栄養塩や植物プランクトンの異常な増加を引き起こし、水域の富栄養化をもたらすことが報告されている。以上のことから、外来性植食者が存在する群集にその捕食者を導入すると、植食者の現存量が減少し、水中の栄養塩や植物プランクトンの増加が抑制されると予測できる。この予測をメソコズム実験により検証した。水田近くの富栄養的な溜め池や水路を想定し、植物にマツモCeratophyllum demersum、植食者にスクミリンゴガイ(稚貝)P. canaliculata、捕食者にコイCyprinus carpioからなる系を用いた。コントロール(大型生物なし)、植物のみ、植物+植食者、植物+植食者+捕食者の4処理を設け、各生物の現存量および含有窒素・リン量、水中の栄養塩濃度、クロロフィル量等を処理間で比較した。その結果、捕食者の存在する処理では、植食者だけでなく水中の栄養塩濃度やクロロフィルa量も減少した。すなわち予測通り、捕食者のトップダウン効果が、他の栄養段階の生物の現存量だけでなく、窒素やリンの動態にも変化をもたらしたことになる。本研究の結果は、外来性植食者を含む淡水ベントスの生態系において、バイオマニピュレーションとしての捕食者の導入や活性化が、外来種管理だけでなく水質浄化の手段としても適用できる可能性を示している。