| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-368  (Poster presentation)

長野県上伊那地方の異なる微環境における蛾類群集による環境評価
Environmental evaluation by the moth communities at different small scale habitats in the Kamiina district, Nagano Prefecture, central Japan

*田島尚, 大窪久美子(信州大学農学部)
*Hisashi TAJIMA, Kumiko OKUBO(Shinshu Univ.)

日本に生息する蛾類は約6000種と多様性が高く、その多くが植物食で寄主範囲の狭いグループを含む一方、腐植・地衣類等と食性幅も広いため、多様な環境を反映する優れた環境指標性を有する分類群であると考えられる。しかし生態的情報の不足や同定の難しさから環境指標としての利用は遅れている。また、蛾類を環境指標に用いた先行研究の多くは比較的大規模な森林等で行われている。そこで本研究では、隣接する比較的小規模な森林環境(4調査区)と草地環境(3調査区)において蛾類の環境指標としての有用性を検討した。各調査区間の推定距離は最小で約100m、最大で610mである。
ボックス式灯火採集の結果、未同定種を除き、計336種1841個体の蛾類が記録された。各調査区における出現蛾類の種数・個体数の食性別割合は、森林環境では木本・腐植食性種が、草地環境では草本食種の割合が高い傾向にあり、優占種でも同様の傾向だった。各調査区における蛾類群集の四つの多様度指数は、全て草地環境に比べて森林環境が高い値を示した。また、各調査区間の推定距離と蛾類群集の類似度係数PSは有意な負の相関があったが、一方では同じ植生環境間の値は0.25以上、異なる環境間では0.16以下と差が生じた。
蛾類群集の亜科別個体数を用いたTWINSPAN解析では、調査区分類においては森林環境の4調査区と草地環境の3調査区がはじめに二分された。亜科群分類では森林性亜科群として木本食のシャチホコガ科の2亜科および地衣類食のコケガ亜科、腐植食のキバガ上科の複数亜科やクルマアツバ亜科等に、一方では、草地性亜科群として草本食のツトガ亜科やタバコガ亜科等が認められた。亜科群分類結果と共通亜科群内の食性的特徴は比較的一致した。
以上、隣接した小規模で異なる植生環境下において、蛾類群集の構造は各々に呼応することが認められ、本分類群の環境指標としての有用性が示された。


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