| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-375  (Poster presentation)

カメラトラップを用いたヒグマ個体群の社会構造推定-浦幌地域と札幌地域の比較から-
Estimation of social structure of brown bear population using camera trap- From the comparison between the Urahoro area and the Sapporo area-

*栗木隼大, 黒田将義, 加藤亜友美, 上田健太, 鈴木透, 佐藤喜和(酪農学園大学)
*Hayata KURIKI, Masayoshi Kuroda, Ayumi Kato, Kenta Ueda, Toru Suzuki, Yoshikazu Sato(Rakuno Gakuen University)

近年札幌地域ではヒグマUrsus arctosの分布が拡大し,生息地に接する市街地への亜成獣や親子連れの出没が増加している.一方浦幌地域では,生息地に接する農地への出没や食害が発生している.出没個体には亜成獣やオス成獣が多い.このように生息地周辺の土地利用や個体群動向が異なる地域では,個体群の空間構造にも違いが見られる可能性がある.
そこで本研究では札幌地域の森林内に46台,浦幌地域の森林内に97台のカメラトラップを設置し,撮影された映像からオス成獣,メス成獣を識別して性齢クラス別の撮影頻度指数(RAI)を算出し, RAIの空間分布パタンについてホットスポット分析を行った.さらに,ゼロ過剰モデルを用いて人の生活圏からの距離がヒグマの雌雄別RAIにどのような影響を及ぼしているのか検討した.
ホットスポット分析の結果,札幌地域では雌雄とも市街地から遠く離れた奥山でホットスポットが検出された.一方,浦幌地域ではメス成獣にのみ農地から遠く離れた奥山でホットスポットが検出された. また,ゼロ過剰モデルを用いた解析の結果,札幌地域では雌雄ともに人の生活圏から離れた場所ほどRAIが高くなる傾向が見られたが,浦幌地域では雌雄ともに人の生活圏からの距離によりRAIは影響を受けていなかった.
ヒグマのオス成獣は行動圏が広くなわばりを持たないため,両地域とも調査地全域が1頭の行動圏内に含まれうる.一方メス成獣は行動圏が狭く出生地付近に保守的な行動圏を構える.そのためオス成獣は,札幌地域では人の活動の影響が少ない奥山を選択的に利用しているのに対し,浦幌地域では農地周辺を含む森林内全域を広く選択的に利用していると考えられる.メス成獣は札幌地域でも浦幌地域でも人の影響が少ない奥山の生息密度が高いが,人の生活圏から近い場所にも分布していると考えられる. こうしたヒグマ個体群の空間構造の違いにより,出没個体や駆除個体の構成の差が生じたと考えられる.


日本生態学会