| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-376 (Poster presentation)
各生物種の人口学的動態の理解を目指してきた個体群生態学では、種内多様性はノイズとみなされ、個体群動態のモデルを構築する際に無視されていたが、近年の研究によって、種内多様性が捕食リスクの軽減や資源競争の緩和を通じて個体群動態に影響を与えることがわかりつつある。すなわち、種内多様性が個体群の増殖率や安定性を高めること(多様性効果)が示唆されている。しかし、種内多様性を扱った生態学的研究のほとんどは質的な変異に着目したものであり、野外で普遍的に存在する量的形質の変異や複数形質の総体としての表現型変異(個体差)の多様性効果を検証した研究は皆無である。本研究では、野外のオオショウジョウバエ(Drosophila immigrans)を用いて、いくつかの質的形質の多様性を定量し、多次元の形質空間で個体差の程度を評価することを目的とした。まず、野外で採集したオオショウジョウバエの雌成虫を単離し、そこから得られた子孫を同一条件下で継代していく系統(単雌系統)を32個確立した。次に、単雌系統間で形質の遺伝的変異を調べるために、確立した単雌系統を用いて、成虫の活動量と翅の面積、翅の形態の測定を行なった。ショウジョウバエ用の行動計測器を用いて、1個体ごとの活動量を24時間(明:暗=12:12)測定し、1時間ごとの活動量を用いて主成分分析をしたところ、単雌系統間で活動量や活動の日周性に有意なばらつきが存在した。また、翅の面積や形態の解析を行なったところ、いずれも単雌系統間で有意なばらつきが検出された。なお、形質間ではいずれの組み合わせについても有意な相関は見られなかった。このことは、今回測定した形質間には遺伝相関やトレードオフの関係がないことを示唆している。これらの結果をもとに、多次元の形質空間における個体差を評価した結果を報告する。