| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-379  (Poster presentation)

カワラハンミョウの体色における背景マッチングとその適応的意義 【B】
Adaptive body coloration through background matching in the tiger beetle Chaetodera laetescripta 【B】

*山本捺由他, 曽田貞滋(京都大学大学院)
*Nayuta YAMAMOTO, Teiji SOTA(Kyoto Univ.)

背景色と一致した体色によるカモフラージュである背景マッチングは,自然界で最も広範に見られる対捕食者戦略である.背景マッチングが実際に適応的であることを示すには,捕食者の色覚の観点から体色と背景色が一致していること,そのような一致性が実際に野外において被攻撃率を低下させることを実証する必要がある.しかしながら,遺伝性の体色を持つ動物においてそのような一致性とその効果を直接示した研究はほとんどない.本研究では上翅に黒色部と白色部で構成される体色パターンをもつカワラハンミョウにおいて,体色パターンの構成割合の違いによって決定される体色の明るさが背景色の明るさとどれくらい一致しているか,また,その一致性が捕食回避において効果を持つかを検証した.砂色が異なる地点から採集したカワラハンミョウの上翅の輝度(明るさ)を算出した結果,各地点の砂の輝度とよく一致し,推定される捕食者(鳥類)の色覚の観点から識別しにくいことが示された.加えて,それらの上翅の輝度は,上翅全体に対する白色部の割合と有意に相関していた.ハンミョウの模型を用いた野外捕食実験により,背景色に似た色の上翅を持つ個体は鳥類による攻撃率が低いことが明らかになった.また,体色は系統関係や気候適応によっても影響されることが考えられるため,集団間の系統関係を考慮して砂の輝度,成虫活動期の平均気温,日射量が上翅の白色部割合に対して与える影響を調べた結果,砂の輝度のみを含むモデルが選ばれ,白色部割合と砂の輝度との間に有意な関係が見られた.これらの結果はカワラハンミョウの集団間の体色変異が,背景マッチングによる捕食回避効果を選択圧として進化したことを示唆する.


日本生態学会