| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-380  (Poster presentation)

オオセンチコガネにおける色彩間の移行帯とその集団遺伝学的解析
The transitional zones of color molphs and population genetic analysis in Phelotrupes auratus

*荒木祥文, 曽田貞滋(京都大学)
*Yoshifumi ARAKI, Teiji Sota(Kyoto University)

表現型の異なる集団間に生じる移行帯は、生物の集団分化の機構を解明する上で極めて好適な材料である。近畿地方に生息するオオセンチコガネ(Phelotrupes auratus Motschulsky)では、赤色型、緑色型、そして瑠璃色型の3種類の色彩多型が見られ、地域ごとにいずれかの色彩にほぼ固定していることが知られている。しかし、色彩の異なる地域間における集団遺伝学的構造の差異や、色彩型間の移行帯で生じている事象などについてはいまだ未解明である。

そこで本研究では、近畿地方(琵琶湖周辺地域)の24か所から得られたオオセンチコガネを用いて集団遺伝学的解析を行い、色彩型の移行帯における遺伝的変異を検出することを試みた。各個体の反射スペクトルの量的評価と地理的分布に基づいて地域集団を定義し、RADシーケンス(Restriction site-Associated DNA sequence)によって取得した核DNAの塩基配列データ、およびmtDNAのCOI遺伝子配列を解析して、24地域集団の集団遺伝学的構造を解析した。

色彩評価の結果、4つの地域集団が定義された(湖西赤色型、湖東赤色型、緑色型、瑠璃色型)。そのうち緑色型集団と湖西赤色型集団との間では明瞭な遺伝的分化が見られ、その境界地域の集団では2つの集団の遺伝的構成を合わせもつ個体がみられた。このことは、この2つの地域集団が過去の地理的隔離を経て二次的接触を生じたことに起因する交雑帯を形成しており、交雑個体が何らかの強い選択圧にさらされることによって移行帯が維持されていることを示唆している。一方、緑色型、瑠璃色型、および湖東赤色型の3つの地域集団間においては遺伝的な分化は不明瞭であり、色彩型の移行に対応した集団遺伝学的構造の差異を検出することはできなかった。


日本生態学会