| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-382 (Poster presentation)
感染症を媒介する蚊の生活史には気候条件が大きく関わっているため、感染症の潜在的なリスク評価は気候に対する応答を考慮した媒介蚊の個体群動態に基づいて行う必要がある。本研究で対象とした温帯性の感染症媒介蚊は、越冬のため休眠をする。また、温帯における媒介蚊の個体群には降雨による正・負の影響が共に確認されている。そこで、本研究では越冬のための休眠と降雨の正・負の効果、合わせて3つの要因を組み込んだ気候データで駆動する感染症媒介蚊の個体群動態モデルを開発した。3つの要因が感染症媒介蚊の個体群動態モデルの予測精度に与える影響を明らかにするため、要因の組み合わせごとにモデルを立てて実測データをもとにパラメータを推定し、対数尤度でそれぞれのモデルでの推定個体数の予測精度の比較を行なった。パラメータ推定とモデル予測の検証には東京で採集された実測の個体数データを用いた。その結果、最も対数尤度が大きくなったものは生活史に休眠をもち、降雨の正の効果が変動し、負の効果がある場合のモデルだった。また、アンサンブル予測と呼ばれる、わずかに初期値の異なる複数の数値予測を行った将来気候データセット(d4PDF)をモデルに入力し、将来予測の不確定さを考慮した確率的な個体群動態予測を行なった。降雨の負の効果があるモデルと負の効果がないモデルのアンサンブル平均を比べると梅雨の時期における個体数の減少が見られた。降雨の正の効果が降雨量に相関するモデルと効果を一定としたモデルとではアンサンブル平均で蚊の消長に違いが見られた。これらの個体数や消長の違いは現在とは異なる将来気候に対応した感染症媒介蚊の個体群動態の予測幅を意味している。観測データの説明力がそれほど違わない複数のモデルを用いても将来気候下における潜在的な感染症リスクに確率的な幅の違いが生じることを示唆している。