| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-391 (Poster presentation)
【背景・目的】
日本には、2亜種のイノシシが生息している。1種は、本州・四国・九州に生息するニホンイノシシ、もう1種は琉球列島に生息するリュウキュウイノシシである。イノシシは、農作物への被害が大きい動物であり、害獣として駆除されることもある。一方で、徳之島に生息するリュウキュウイノシシは、絶滅のおそれのある地域個体群として環境省のレッドリストに指定されている。先行研究では、父系遺伝においてリュウキュウイノシシは島ごとに特有の遺伝的特徴を保持していることが明らかになった。本研究ではニホンイノシシの父系遺伝子に焦点を当て、地域間の遺伝的特徴を明らかにすることでニホンイノシシの遺伝構造について評価することを目的とした。
【材料・方法】
解析対象個体は、本州・九州の5つの地域(神奈川県・千葉県・和歌山県・長崎県・宮崎県)に生息するニホンイノシシ計59頭を用いた。先行研究で開発・使用したプライマーを用い、Y染色体マイクロサテライトマーカー6座位においてDNA型判定を実施した。定法に従い、FST値を算出し、STRUCTURE解析、系統樹解析を実施した。
【結果・考察】
FST値を算出した結果、神奈川県と宮崎県間に有意な集団間分化(P<0.001, FST=0.3829)が見られた。STRUCTURE解析の結果、2つの集団に大別され、主に、神奈川県と宮崎県で異なる遺伝的特徴を保持していることが明らかとなった。系統樹解析は、集団間と個体間に分けて実施した。5集団における系統樹解析では、和歌山県、長崎県がそれぞれ離れて位置した。これは和歌山県、長崎県のサンプル数がそれぞれ1頭と少なかったためと考察した。個体間の系統樹解析では、分化はなかった。以上のことより、神奈川県と宮崎県の集団は異なる遺伝的特徴を保持しており、これは地理的な要因であると考察した。今後は、解析対象座位及び解析頭数を増やすことで、より詳細な父系遺伝構造を評価する予定である。