| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-393 (Poster presentation)
変温動物は、低温環境では成長速度が低下するため、高緯度下では最終体サイズが小型化する。小型化は、捕食リスクの増加や産卵数の低下を介して適応度に負の影響を与えるため、成長速度を速めたり、低温耐性を発達させたりすることで体サイズを維持するような適応が生じる。これを緯度間補償という。緯度間補償が達成された場合、体サイズの緯度間変異はなくなる。分布限界の成立メカニズムに関する理論的研究から、分布周縁部では集団遺伝学的プロセスにより適応が制限されることが示されている。分布周縁部で緯度間補償が制限された場合、負の体サイズクラインが生じると予測されるが、このような集団間変異の創出において「適応の制限」が果たす役割は未だによくわかっていない。トウキョウサンショウウオは、福島県に分布の北限を持つ小型サンショウウオの一種である。本種の体サイズを比較したところ、分布の南限から中緯度の集団間では変異がなく、中緯度から北限にかけては急激に小型化することが分かった。また、緯度勾配に沿った17集団の孵化幼生を飼育し、成長速度と低温耐性を比較したところ、南限から中緯度にかけては成長速度が速くなり、低温耐性も発達する傾向がみられたが、中緯度から北限にかけては両者ともに停滞あるいは低下する傾向がみられた。MIG-seq法により、38集団の遺伝的多様性を比較したところ、南限から中緯度にかけては遺伝的多様性が高く、中緯度から北限にかけては大きく減少した。また、種分布モデリングの結果から、分布の北限では好適生息地が断片化している傾向が見いだされた。このことから、分布北限近くでは生息地の断片化により集団の遺伝的多様性が低下しており、その結果として緯度間補償が制限されることで体サイズの緯度クラインが生じていると考えられた。この結果は「適応の制限」が集団間変異の創出機構として重要な役割を果たすことを示唆している。