| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-397 (Poster presentation)
ツキノワグマ(Ursus thibetanus) の食性に関する報告は、ここ数十年で比較的多くなされているが、そのほとんどは個体群レベルでの報告にとどまる。本研究では、2016年5月から2018年11月にかけて長野県上伊那地域で計15頭のツキノワグマにGPS/イリジウム首輪を装着し、それらの個体の糞を採取することによって個体レベルでの食性を明らかにすることを目的とした。
2017年と2018年にそれぞれ105個(10頭)と362個(12頭)の糞を採集した。全体の傾向として、春には草本を、夏季には草本や社会性昆虫、液果類など様々な食物を、秋にはブナ科堅果を中心に採食していた。食性の個体差の程度はオスとメスともに春と秋には小さかったが、夏には大きくなった。また、食物構成の多様度(Shannon-Wienerの多様度指数)も食性の個体差と同様に、オスとメスいずれも春と秋には小さく、夏には高くなった。10月以降は、2018年11月のメス2頭を除くすべての個体がブナ科堅果に大きく依存していた。このことは、秋季の堅果類の採食がどの個体にとって重要であることを示唆する。また、秋季の堅果類の採食時期にはオスとメス間で差がみられ、メスは9月から堅果を採食したのに対しオスは10月からブナ科堅果を利用した。これは、一般的にメスの方がオスよりも冬眠開始が早く、かつ冬眠期間も長いため、オスよりも早くかつ多くの脂肪を蓄積する必要があるためであると考えられた。