| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-399  (Poster presentation)

長寿は絶滅へのカウントダウン:絶滅が危惧されるスジシマドジョウ2種の年級群構成
Long life as the countdown for extinction: age class structure of two endangered striated spined loaches

*森井清仁, 高倉耕一(滋賀県立大学)
*Kiyohito MORII, Koh-Ichi Takakura(Univ. Shiga Pref.)

繁殖個体群の年級群構成は、個体群動態を予測するための重要な要素であるが、絶滅危惧種などでは、年級群構成が調べられていない場合も多い。オオガタスジシマドジョウCobitis magnostriata(以下、オオガタ)とビワコガタスジシマドジョウC. minamorii minamorii (コガタ) はシマドジョウ属の淡水魚であり、絶滅危惧種IB類に指定され、両種の保全が必要とされている。そこで本研究では、オオガタとコガタについて雌雄別の体長頻度から年級群数を明らかにし、既存の研究と関連付けて議論することで、個体群の衰退状況を推定した。
 滋賀県高島市の休耕田を利用したビオトープを調査地とした。調査は2015年から2017年の通水期間(例年5月から7月)に、1週間に1度もしくは2週間に1度の頻度で、成魚のすくい取り調査を行った。また、取水口と排水口付近に小型定置網を一晩設置し、調査地に遡上する成魚を採捕した。さらに、調査地の落水に合わせて、取水口と排水口に小型定置網を設置し、流下してくる成魚を回収した。各調査で得られた個体は標準体長と性を記録し、放流した。これらの調査で得られた標準体長のデータをもとに、繁殖集団が複数のコホートの混合であることと、コホート内の体長分布は正規分布に従うことを仮定し、赤池の情報量基準を指標として、各種各性について最適なコホート数を推定した。推定されたコホート数を、繁殖集団の年級群数とみなした。
2015年から2017年の調査で採捕された成魚の体長分布から推定された年級群数は、オオガタのオスで4、メスで2、コガタのオスで3、メスで6であった。本調査地では、オオガタからの繁殖干渉によりコガタのメスの大部分が産卵に失敗していることが指摘されている。これらのことから、コガタの年級群数が多いのは、繁殖失敗に起因するものであり、コガタは個体群の衰退の過程にあると考えられた。これは、野外において繁殖干渉が個体群の衰退をもたらす過程を示した貴重な知見である。


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