| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-416  (Poster presentation)

オタマジャクシで同時に進行する形態的表現型可塑性と生理的表現型可塑性
Simultaneously occurring morphological and physiological phenotypic plasticity in frog tadpoles

*岸本渓, 林文男(首都大学東京・生命)
*Kei KISHIMOTO, Fumio HAYASHI(TMU, Biology)

 カエル類の幼生では、環境に応じた様々な表現型可塑性が確認されている。例えば、雑食性の幼生に植物質の餌を与えると、動物質の餌を与えた場合と比べ、腸が長くなるとされている。また、カエル類の成体は完全な肉食性であり、変態時に幼生型の腸を構成する細胞をアポトーシスによって取り除き、新たな細胞を増殖させることで成体型の腸を再構築する。本研究では、雑食性であるモリアオガエル幼生にホウレンソウを与えた集団とイトミミズを与えた集団を用意し、形態的表現型可塑性、生理的表現型可塑性および腸の再構築の発生学的タイミングについて解析した。
 幼生を発生段階ごとに解剖して腸の各部位を計測すると、ホウレンソウを与えた集団はイトミミズを与えた集団より腸の長さが長くなるだけでなく、より細くなり腸壁の厚さも薄くなる傾向がみられた。さらに、成体型の腸を再構築する発生学的タイミングが早くなった。
 摘出した腸から消化酵素液を作製し、消化能力について比較した結果、タンパク質分解速度は、イトミミズを与えた集団がホウレンソウを与えた集団より大きかった。反対に、マルトース分解速度は、ホウレンソウを与えた集団がイトミミズを与えた集団より大きかった。また、飼育の途中で餌を切り替えた場合の成長速度を調べた結果、イトミミズを与え続けた幼生と比べて、餌をホウレンソウに切り替えた幼生は、成長速度が著しく低下する傾向があった。
 アオガエル科の中で肉食に特化したアイフィンガーガエル幼生(卵のみを専食)についても腸の発生に関して形態的表現型可塑性と生理的表現型可塑性を調べた。その結果、この幼生の腸の形態的、生理的特性はモリアオガエル幼生にイトミミズを与えた場合の表現型可塑性と類似していた。このことから、モリアオガエルの腸にみられた様々な表現型可塑性は適応的であると考えられた。


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