| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-418 (Poster presentation)
変動環境下において,生活史の多様性が維持されることは,個体群動態の安定化に寄与する.生態系の境界をまたぐ餌生物の季節的な移動は,受け手側の消費者の個体数や集団レベルでの生活史変化に影響する.しかし,生態系の季節的なつながりが消費者の生活史多様性維持に及ぼす影響は明らかでない.
本研究では,自然河川において,2016-2017年の6-8月(春-夏)と8-10月(夏-秋)に,それぞれ総量が等しくなるようにアマゴ(サケ科魚類)の餌となる陸生昆虫を供給する実験区と,無供給の対照区を設ける野外操作実験を行った.アマゴの標識再捕獲を継続して行い,個体の成長軌跡と繁殖開始年齢,および生存確率を調べた.成長軌跡について,潜在変数(≈成長戦略)を個体に関連付けた混合分布モデルを構築し,複数の成長パターンが存在するかを検証した.その結果,3つの成長パターン(高/中/低成長)を有するモデルが最適モデルとして選択され,特に春-夏供給区で高成長パターンを採用する個体の割合が高かった.個体の成長パターンは,成熟開始年齢と強く関連しており,高成長パターンの個体で1歳成熟確率が有意に高かった.また,成長と生残の間にはトレードオフが認められた.以上の結果から,生活史(成長パターンと1歳成熟の有無の組合せ)の多様性は,個体の生活史戦略の多様性として維持されていると推察された.この生活史の多様性は,春-夏供給区で最も高かった.したがって,成長機会の初期(春-夏)に生じる森林からの季節的な餌資源流入が,アマゴの生活史戦略に多様性をもたらす鍵になっている可能性がある.
現在,アマゴの生活史多様性の遺伝基盤を探索するため,RAD-seq法によるゲノムワイド関連解析を行っている.発表では,成長率や繁殖開始年齢の遺伝基盤の有無や程度も含めて,生態系の季節的なつながりの下での生活史多様性の維持機構やそれによる個体群動態の安定化プロセスについて議論する.