| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-427 (Poster presentation)
親以外の第三者が子育てを手伝う繁殖様式は協同繁殖として知られ,子育てを手伝う個体はヘルパーと呼ばれている.協同繁殖は鳥類や哺乳類で多くの研究が行われているが,魚類での協同繁殖種の報告はわずかであり,さらにそのすべてがアフリカ・タンガニイカ湖産カワスズメ科魚類に限られている.魚類のヘルパーがなぜ子育てを手伝うのかを説明する仮説として,pay-to-stay仮説が提唱されている.ヘルパーが繁殖個体のなわばり内に滞在を許容してもらうために子育てを手伝うという内容の仮説であるが,この仮説の検証はほとんどなされていない.
タンガニイカ湖での予備調査により,これまで協同繁殖種の報告がないLepidiolamprologus属でL. sp. “meeli-boulengeri”(以下メーリーと呼ぶ)が協同繁殖をする可能性が示された.本種は数個の巻貝を繁殖巣として利用する. そこで本種の生息地である砂地にて行動観察を行い,メーリーの社会構造を調査した.その結果,本種はハレム型一夫多妻の繁殖様式を持ち,繁殖メスが持つ巣の中には仔稚魚と未成熟個体がいることが分かった.未成熟個体は手伝いを行っているようであり,繁殖個体は子育ての負担を軽減できている可能性がある.そこで,未成熟個体を除去する操作実験を行ったところ,除去後に繁殖個体の仔稚魚捕食者への攻撃頻度が上昇した.このことから巣内にいる未成熟個体は繁殖個体の子育てを手伝うヘルパーであり,メーリーは協同繁殖種であると結論付けた.さらに,いくつかの巣ではヘルパー除去後,新たな未成熟個体が加入した.この個体は子育ての手伝いの一つである巣のメンテナンス行動をすぐに行うようになったことから,ヘルパーであると考えられる.調査地では捕食リスクが高いことを考慮すると,このヘルパーは巣の中に滞在して捕食回避をするために子育ての手伝いを行っていると言える.つまり,メーリーのヘルパーが子育てを手伝う理由はpay-to-stay仮説で説明できると考えられる.