| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-428 (Poster presentation)
固着性の同時的雌雄同体生物において、その性配分は配偶相手の数 (MGS; Mating group size) によって変化することがCharnov (1982) の性配分理論によって示された。この理論の予測や、これを基にした多くの実証研究においてMGSは雌雄で一定と仮定されている。しかし、片側交尾 (Unilateral copulation) や連鎖交尾を行う生物では、雌雄でMGSが異なることが考えられる。本研究では、性配分が雌雄それぞれのMGSから受ける影響を明らかにすることを目的とした。
調査は、同時的雌雄同体であり、固着性かつ交接器を用いて交尾を行うミネフジツボを対象に行った。採集は、本種の繁殖期の直前にあたる9月下旬に行った。その後、解剖を行い、各生殖腺 (雌:卵巣、雄:精巣と貯精嚢) と体サイズの乾燥重量、交接器の長さを記録した。交接器の長さを元に、雄としての配偶相手の数 (雄MGS) と雌としての配偶相手の数 (雌MGS) を設定し、雌雄の投資に対してそれぞれのMGSが与える影響をみた。
雄への投資は、両MGSから異なる影響を受けており、雄MGSと体サイズから正の影響を、雌MGSからは負の影響を受けた。このことから、雄MGSが増えれば、授精可能な卵が増えるため、雄への投資を増やすことが示唆された。一方、雌MGSが増えると、交接器の誘因 (活発な蔓脚の伸長運動) や産卵にエネルギーを回すと考えられる。雌への投資については、体サイズによる正の影響のみが検出された。上記と同様、交接器の誘因、産卵、子の成育など卵巣以外への投資が考えられる。また、今回の結果からは性配分で仮定されている雌雄間のトレードオフ関係は見られなかった。上記の理由に加え、卵巣重量が精子に比べ大きいために、精子の増減効果を見えにくくしている可能性がある。本研究から、片側交尾を行う生物において、その性配分は雌雄それぞれのMGSから異なる影響を受けていること、雌雄で異なるMGSを用いることにより、その影響を評価できることが示された。