| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-436 (Poster presentation)
リン(P)は生物にとっての必須元素である。Pは母岩鉱物の風化により森林生態系に加入したのち樹木や土壌微生物を介して系内を循環するが、森林生態系のP循環はリターフォール量から議論されることが多く、土壌微生物によるP循環の評価がなされていない。土壌微生物は土壌Pを吸収すると同時に、その死後Pを土壌に供給する。この微生物のターンオーバーによってPはどれだけ土壌に供給され、森林生態系内を循環しているのだろうか。
そこで本研究では、ボルネオ島キナバル山の9つの熱帯降雨林において、地上部リター・細根・微生物炭素(C)の土壌への年間供給量、各要素のC/P比をもとに、地上部リター・細根・微生物Pの土壌への年間供給量を推定し、樹木および微生物によるP循環量を評価した。
9つの森林において微生物のC供給量は全C供給量の20-40%となり(地上部リター、細根、微生物のC供給量:775-4925, 415-1085, 794-2055 kg ha-1 yr-1)、地上部リターや細根と同等の量のCが微生物ターンオーバーによって土壌に供給されていることが示された。その一方で、微生物は植物リターや細根に比べてC/P比が著しく低い(P濃度が著しく高い)ために、微生物のP供給量は全P供給量の93-97%を占めた(地上部リター、細根、微生物のP供給量:0.26-4.75, 0.11-0.94, 8.47-98.96 kg ha-1 yr-1)。このことから、森林生態系においてPは土壌微生物を介して高速に回転しており、その結果、植物や微生物が獲得するPのほとんどは微生物死骸に由来することが示唆された。そこで、密度バリア遠心法によって土壌から微生物(細菌)群集を単離し、そのPの組成を調べたところ、全Pの87-94%が有機態Pで構成されており、植物や微生物のP獲得は強く微生物由来の有機態Pに依存していることが示唆された。