| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-446 (Poster presentation)
温帯針葉樹ヒノキは土壌中のアンモニア態窒素(NH4+),硝酸態窒素(NO3-),一部の有機態窒素を細根の表皮細胞もしくは細根に共生するアーバスキュラー菌根菌(AM菌)を介して吸収していると考えられる.本研究では,ヒノキの窒素吸収とそれに対するAM菌の寄与を解明するため,ヒノキ苗11個体を京都大学上賀茂試験地ヒノキ天然林から採取した土壌を用いて10週間ポット栽培した後,細根の窒素源とAM菌感染率との関係を調べた.栽培後,土壌から抽出したNH4+,NO3-,抽出可能有機態窒素(EON)の窒素安定同位体比(δ15N)を測定し,細根のδ15Nと比較して窒素源を推定した.細根細胞内のAM菌構造体の有無を光学顕微鏡観察し,算出した11個体のAM菌感染率は3~25%であった.土壌中の窒素としてはNH4+量とEON量が多く,NO3-量は1ポットを除きほぼ検出されなかった.また,NH4+,EON,NO3-のδ15Nの平均値はそれぞれ6.2,-0.7,-11.4‰で,細根のδ15Nは平均値が1.9‰とNH4+とEONの間の値であり,AM菌感染率が高い個体ほどEONのδ15Nに近づいた.このことは,窒素吸収の際の分別がないと仮定すると,細根の窒素源がNH4+とEON であり,EONの吸収にはAM菌が寄与していた可能性を示唆するものである.しかしこの場合,感染率が3%しかない個体において細根の表皮細胞を通してNH4+と同等量のEONを吸収しているという解釈となり,このようなことは考えにくい.そこで,NH4+を吸収する際に同位体分別が起きていたと仮定すると,分別がないと仮定した場合よりも細根の窒素源としてNH4+の割合が高く,EONの割合が低かったことになる.以上より,NO3-の少ない森林土壌で育成したヒノキ苗の細根は主にNH4+を窒素源としていること,AM菌感染によってEONの窒素源としての寄与が高まる可能性があることが示唆された.