| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-447 (Poster presentation)
植物は膨大な有機化合物を根から滲出する機能を持ち,土壌微生物へのプライミング効果や他の植物にアレロパシーとして影響を与えることで植物の生存に役立てている.本研究では,樹木細根の滲出炭素量を微細スケールで採取する方法を新たに開発し,針葉樹4種における根滲出速度の樹種間差,および滲出速度と形態・化学組成との関連性を解明することを目的とした.
調査は信州大学手良沢山演習林の冷温帯林で行われ,針葉樹4種の外生菌根種に分類されるアカマツ・カラマツ,内生菌根種に分類されるスギ・ヒノキの細根系を対象とした.各樹種が優占する林分から10個体の成木を選び,地面から無傷の根系を掘り起こした.1根系につき3直径階級(<0.5,0.5-1.0,1.0-2.5mm)に区分し,微細なフィルターに根系からの滲出物を吸着させた.フィルターに吸着された炭素量を測定し,根重量当たりの滲出量を計算した.滲出物を採取した根系は,直径,比根長,比表面積,根組織密度,窒素濃度,CN比を測定された.
結果,根滲出速度はスギが最も高く,有意な樹種間差が認められた.滲出速度はすべての樹種において直径が小さくなるほど高くなった.細根形態に関しては,生理活性や栄養吸収能力の指標となる比根長(m g⁻¹)と滲出速度には正の相関,物理的強度の指標となる根組織密度(g cm⁻³)と滲出速度には負の相関が認められた.生理活性の指標となる根窒素濃度,根CN比と滲出速度もスギを除く3樹種で正の相関が認められた.これらの結果から,直径が細く,若く生理活性が高い一方,脆弱な根系ほど滲出速度が高くなると示唆された.また針葉樹の細根系は,形態や化学特性を変化させ,滲出物の放出に最適化した構造を形成させることが示された.これらの結果は,滲出物として放出する炭素と構造形成に要する炭素を巡るトレードオフが存在し,針葉樹細根系における炭素を利用した資源獲得および生存戦略を反映しているものと期待する.